
遠いあの日 旅する絵本からお土産に貰った月の欠片で出来た栞を
考えあぐねた末に どの本にも挟まずにいた子猫は
大人になっても挟まないまま 引き出しの奥深くに仕舞ってありました
Michel Pépé - Le Berceau de la Vie

それでも 相変わらず時々本を読みに出掛けていましたが
ある日 始まりの本が数冊消えている事を知りました
司書のお姉さんに尋ねても 知らないと言うばかりです

始まりの本が消えてしまったと言う事は
物語の続きがもう無いのだと 何処かで気付いていても
新刊が出る度に 本を読みに出掛けていたのです

その頃猫は よくひとりで月を眺めていました
本棚から見つけた李白の月下獨酌など詠みながら
行方の知れないクマくんを探し疲れて 途方に暮れていたのです

ある時 ふっとあの栞のことを想い出し
クマくんが戻って来る夢を描いた頁に 挟んでみようと決めました
猫は大人になってもずっと 一回しか効かない魔法を信じていたのです

数日が過ぎた ある夜のことでした
夢の中で 旅先から戻って来た絵本が
近くの町で クマくんを見かけたと教えてくれました
その町を訪ねてみると クマくんは元気そうに働いていました
やっぱり 魔法の栞だったのです
旅する絵本は この頃あまり戻って来なくなりました
何処かの町で とても必要とされているのかも知れません

猫は 見つかったクマくんが
かくれんぼをしながら ずっと傍に居てくれたことを知りました
月を ずっとひとりで眺めていたと想っていたのに
いつも岩陰から 一緒に眺めていたのです

今は遠く離れた町にいても 猫とクマくんは同じ空を一緒に眺めています
猫が 心からそう信じる事が出来たのは
クマくんが 山のように使ってくれた大切な時間のお陰です

それから 絵本がお土産に買って来てくれた
月の欠片で出来た 魔法の栞のお陰です

猫は 時々本棚の埃を祓いお掃除します
人を傷つける言葉の綴られた本などを片づけ
温かい言葉の綴られた本や 元気が出て来る本などを並べ
絵本が戻って来た時の場所を 一冊分空けて待っています

もしも 絵本が修復が出来ないほど傷んで戻って来たら
お花の下に 埋めてあげたいと想いながら・・・

2014-01-14 に「旅する絵本 」を描きました
あれから もう彼是四年以上の月日が過ぎました
これまでの長い道程を 月夜に振り返っていました
過ぎ去れば 想い出はいつも温かく包んでくれるものだと・・・
これからも 出来るだけ温かい言葉を選んで
心の中を綴ってゆけたら と想っています
月と陽と 同じお空を眺めていて下さる方に 感謝を込めて・・・
まり