George Shearing - When I Fall In Love (1974)

旅をしている猫が 一枚のメモを落として行った
僕はそれを拾って 暫く眺めていた
そこには 見た事も無い密造酒の作り方が書かれていた
僕はまだ子供で お酒など呑めないけれど
何故大人は こんなものを作るのだろうかと想像していた

タンポポは 確かに身体にいいらしい
若葉や開きかけの蕾は天婦羅にして食べた事がある
少し苦みがあって 野草の味がした
根っこは珈琲にして飲んでいた事がある
濃い目のほうじ茶と甘茶を足したような
香ばしくてほんのり甘く とても美味しかったし
何より腎臓に良くて利尿効果が高かった
でも タンポポ酒は 何にいいのかしら・・・

子どもたちは 春のタンポポを摘む
早春の ワクワクとドキドキとフワフワとハラハラとズキンズキンを・・・
春を忘れたくなくて・・・春を想い出すために・・・
いつも春の隣にいたいから 春を集める

どんなに素敵なお花も 咲くのは一瞬
人生の春は 瞬く間に青い葉を茂らせ秋が訪れる
だから大人たちも 春のお花を瓶に詰めて発酵熟成させるんだ
冬の為に・・・冬に 心を温めるために・・・
枯れた梢が北風に揺すられ
頑張っても頑張っても どうしようもなく凍えて凍り付きそうな時
タンポポ酒を呑んで 春の想い出に温めて貰うんだ
そう言えば 僕の友だちもそう言ってたっけ・・・

露の煌めきが あんまり素敵で
時間を忘れて野遊びをした

寝っ転がってイチゲを眺め
カタクリのお花を探して 匍匐前進!

あぁっ! 見つけた見つけた! 開いたよって叫んだら
何処かの澄ました大人が 野生児だねって笑ってた
大人になると 出来なくなることがいっぱいでつまんないね

身体はもう大人だけど 心の中にはまだ少年が住んでいるから
僕はまだ タンポポを摘むことが出来るんだ
僕はもしかしたら 人生9合目の冬の入り口にいるのかも知れない
そんな事を若輩者の身で口にしたら 人生の先輩たちは笑うだろうか
でも 幾つまで生きられるのかなんて誰も知っちゃいないんだから・・・

僕は 皆が当たり前にして来た青春も少なかったから
今頃 愛とか恋とか春のお花を摘んで
この本の中に集めて熟成して来たのかも知れないな・・・
胸が痛くて凍えそうになった時
本を開いたら春が散りばめられているといいな・・・
もう少し作っておかなくちゃ・・・足りなくなっちゃうかも知れないから・・・

明日は 桜を撮りに行けるといいな・・・
僕の四月のお酒を いつか吞む人の為に
春のお花を もっと撮って来なくっちゃ・・・
この街は 大人ばっかりだから・・・ね・・・
まり