Taro Iwashiro

あら・・・お帰りなさい 随分とご無沙汰ね・・・
えぇ 山茱萸が満開で眺めていたのよ
別に・・・拗ねてなんかいないわ
撮影旅行は如何でした?
いいお写真撮れましたか?

あの白梅は もうそろそろ終いですね・・・
さっき あなたからの絵葉書を読んでいたんですよ
それでね あなたの見つめてる未来ってどんなものだろうって・・・
だって・・・こんなに長い時間離れてると
言葉もすれ違ってしまいそうで何だか不安になるのよ

急なお帰りだったから 何もなくて・・・
えっ お茶漬けでいいんですか?
まぁ珍しい・・・
ねぇ 何処かでお好きな肉料理でも召し上がってらしたの?
別に 嫌味なんて言ってやしないわ
ほんとにそう思っただけよ・・・ほんとよ・・・

塩鮭でお茶漬けなんて 久し振り・・・
ねぇ・・・食事って 男と女の会話に似てると思わない?
肉料理のような濃厚なものを味わったり
爽やかな香りの果実で口直しをして見たり
苦みや辛味で泣けちゃったり・・・
じゃぁ どんな時に すれ違ってしまいそうな不安になるのかしら・・・
お皿とお料理があっていない時とか?
私がお肉を食べたいと思ってる時に あなたがお魚を食べたいと言う時とか
私が時間のかかるお料理を作りたい時に
あなたが待てなくて 違うものをつまんでしまう時とか?

ん? いい音でしょ
ポリポリ・・・パリパリ・・・ポリポリ・・・パリパリ・・・
アハハ・・・何だか可笑しい・・・
無言で お漬物を噛む音だけが響いてる
えっ? ホッとするの?
この音に?
色々なお料理を味わって 口に合わないものも食べて
いつの間にか 馴染んでいく
胸が詰まって重くなったら お茶漬けさらさら流し込み
ふーって ひとつ息を吐き リラックスできるといいな
いい時も悪い時も 何度も何度も交わしながら
肌に馴染んだ言葉は 心を緩めてくれる
これが 私には信頼の味なの

ねぇ・・・あなたの未来に この味はあるかしら?
今度は何時お帰りになる?

次のお帰りには 濃厚なお肉料理でも・・・
あっ 作り方覚えておかなくちゃ・・・
まり