
おいらが生まれてから まだ百年は経ってやしないけど
身体が屋久杉で出来ていた為か
はたまた 彫師が魂を入れてくれたのか
いつの間にやら 付喪神なんてぇものになっていた
おいらを 時々懐に入れ
散歩に出かける人間の
あーたらこーたら 聴きながら
うむ うむ うーむ てな相槌を打っている
人間なんてぇ商売は 元々上がりが少ないもんさ
ちょっと勇気を出そうもんなら 自負なんて言われちまう
見たい夢を さらさら綴りゃぁ
欲深なんて 思われちまう
ちょっと身体でも悪くすりゃぁ 時間てもんを奪われちまう
やれやれ・・・厄介な事だ・・・
MattRach - This is L

何をぶつくさ言ってんだよぅ・・・
おやおや お目覚めかい?
どうしてたんだい 二階はえらく静かだったじゃないか
クダの仕事は無いのかい? おこんさん
そういや あの辻占の旦那 最近とんと見かけないね
薄情なもんさね きっと新しいクダでも手に入れたんだろう
古巣の竹筒に ちょっと罅が入ったくらいで
もう好きにしていいって お役を解かれちまったんだよ
取り換えの効くものは どんどん新しくして
最後まで大事に使うなんて もうそんな時代じゃぁないのかねぇ・・・
へぇ~ 管狐がそんなにいるとは思わないけどね
そうだわねぇ こんな古物屋の蔵だっていつまであるんだか・・・
たまにはあたしも お散歩に行きたいもんだわ
あーたらこ―たら聴くくらい いいじゃないか
外の空気も ちっとは吸わないと
こんな黴臭い匂いばっかりじゃ 気が滅入っちまうよ

この間 此処の主人が虫干していた古本があったろう?
あれも如何やら お仲間のようだね
ものを言ってるのを聴いちまったんだよ
へぇ~ じゃぁその内いつか喋り出すだろう
大体 こんな粗末な古物屋を出たり入ったりしてるやつは
大抵 喋れるってもんだよ

そう言えば 主人が下げてる鬼灯の根付があったろう?
初の頃はきゅっと口を結んでさぁ そりゃぁ真面目な顔だったのに
近頃じゃぁ だらしなく開けた口をきき出したようだよ
何だかこの頃 出かける度に養生所ばかりで
何なら 養生所で寝泊まりしたらどうなんだいってな愚痴を
主人に訴えたとかなんだとか・・・

世間じゃぁ おてんとさんも出たって言うじゃないか
ねぇ クマさん この蔵にもちったぁ風を入れて欲しいってもんだよ
あぁ・・・そうさな まるで身体に白粉でも塗したような黴だ
やれやれ・・・蔵の中が騒がしくて行けないよ
定吉 ちょっと蔵の錠前を閉めてきておくれ
こう煩くちゃ 夜もおちおち眠れやしないよ
明日も明後日も養生所に行かなくちゃいけないんだからね
まり