冬の丘の上に立った春は 声も上げず目を閉じている
沈黙しているのかと思いきや 如何やら居眠りをしているようである
時折 樹々の芽に温かい息を吹き掛け
空に 青色の顔料を滲ませたり
週休五日くらいの仕事はしているようである
それでも 雪の下で眠っていた私のセンス・オブ・ワンダーは
蝸牛の角のように あちらこちらにくるくる動き出す
Bach - Cello Suite No.6 v-Gavotte
青い空に ふくよかな雲が浮いている
暫く目にしていなかったこんなにきれいな空を どうして冬と呼べるだろう
木蓮の芽が 温かそうな外套を着ている
陽射しのある日中に 時々汗をかく日もすぐそこだろう
厚氷が解け始め 鳥たちがスケートをして遊べるのも後僅か
水は 確かに温み始めている
見よや春 馬酔木の蕾を揺らす春
雪の中でも色付き始め チリンチリンと鈴が鳴る
身体が 食べたもので出来ているように
心は 見たもの・聞いたもの・読んだもの・感じたもので出来ている
気付かぬうちに 育ってゆくものだから
影響を受けやすい私は 虞を知る
身体によい食べものを選ぶように
自分の心の中に 沁み込んで欲しいものに触れている
夢中で読んで来た好きな本の 昔の頁を捲り
驚きと大きな喜びが重なった夜
私の中で いつの間にか息をしていた貴女を見つけた
とても うれしかった
まり