
Knock knock Who's there?
カチャ・・・9番目の窓が開く
一日の始まりが 心地良いかどうか
それは 夕べ夢を見たかどうかによって違う
だって 夢を見ないと人は歳をとってしまうから…
Ryuichi Sakamoto - Bibo No Aozora [ Piano Solo ]

お台所番の朝は忙しい
珈琲を淹れながら お弁当を作りパンを焼く
お味見役は まだ起きて来ない
寝坊助である
大年寄が起きて来て少しすると 若年寄が起きて来る
お味見役は殿と のんびり起床である

朝の戦いが終わり 竈の火が消え仕事を始めると
幾らもしないうちに 大年寄が昼餉の心配をする
大丈夫ですよ 何か簡単に用意をしますからと宥めると
お味見役と安心したようにお昼寝である

お昼は 大根と油揚げの味噌汁と
豚キムチチャーハンに かに玉を少量添えて…
大年寄りは完食である
お味見役は 仕事をせぬまま寝ている

お台所番お味見役は 西の国からやって来た町娘であるが
大年寄の懐刀になって 早八年
お味見役お毒見役を 只管務めている
昼間は まるで昼行燈の如く静かだ

さて 陽も暮れかかろうとする頃には
お台所番は また戦場のような慌ただしさ
寒くなって 自家発電の出来ない人たちに
温かい夕餉を出さなくてはならない
収穫された野菜で何を作るか
365日考えるのは たまに嫌だと思うこともあるが
お役御免にして貰える日は まだ来そうもない
取り敢えず 大根・里芋・蒟蒻などをことこと煮て
少し遅れて 葱ちりめんのさつま揚げを入れる

湯河原のかますを頂いたので
焼き過ぎないように火を入れる

お味見役は 焼き魚の匂いには反応しない
この娘は やる気があるのか?

凍った土の中にある人参が とても甘くて美味しいので
ひじき・油揚げと塩味で炒め煮にして
炊き立てのご飯に炒り胡麻と混ぜる
畑に青物が無くなって来たので
これは仕方なく仕入れをする

膳を出し終わった後 寒い廊下から運び込んだ
頂き物の富士柿を洗おうとしたその時である
俄かに お味見役の目が気色ばみ大年寄から離れると
ゲートの向こうをうろうろと うろつき始め
仕事をしますから と訴えて来る

おやおや お前さん
今迄 ろくすっぽ仕事もしないで
一日が終わろうって時に 働かせろなんて
どんな了見だね
そんなにきらきらと目を輝かせて
もうね くびだよ 明日から来なくていいよ

大年寄がひと口 お味見役がひと口 大年寄がひと口
お味見役がひと口 大年寄がひと口 お味見役がひと口…
やれやれ…
竈の火が消える頃 空には満天の星である
お味見役は 大年寄よりも先に眠りにつく
どう言うこと?
ここの処 寝落ちばかりしてしまって…
皆さまの処を回れずにいます…ごめんなさい…
まり